文春新書 船橋洋一 2000年
本棚の整理をしていた時に見つけた本です。もう今から20年以上前に発刊された本なので、内容をチェックしたうえで手放そうと思っていました。しかし、今読んでみると、当時には気付かなかった内容が記載されており、知的好奇心を掻き立てられました。
特に日本語教育で聞いたことのある内容がたくさんでてきたのです。しかも、これまで接してきたテキストよりも詳しい内容です。さすが元朝日新聞コラムニストの船橋洋一氏です。どうやってそれらの情報を入手したのかという点でも興味がそそらえました。
日本の情報が世界に届かない
日本人が英語が苦手であることはずっと指摘されています。個人的には、単純に使う機会がないからだと思っています。日本に住んでいれば大概のことは日本語で済むからです。しかし、ネット時代を迎え、世界がネットで簡単につながるようになった現在、英語の情報量は莫大なものがあると思います。世界中の人が英語を通じて情報を入手、発信する中で日本語だけで済む時代ではなくなったのです。
確かに人工知能(AI)の発達によりある程度の文章は容易に翻訳されるようになるでしょうし、話すことも人型ロボットが通訳してくれるかもしれません。
しかし、日本人として世界にコミットとした時、やはり生身の人たちと英語で議論ができないのであれば、大きなハンデになると思います。本来日本として正しいことや重要なことがあったとしても、スルーされてしまう可能性があります。日本からの情報発信が世界の主流の言語である英語圏に届かないのです。そのことに対して危機感を持っています。
本書の執筆が20年以上前ですから、今ほどネットのすごさを実感していないとしても、筆者はネットによるコミュニケーションの可能性を指摘していました。それは個人が世界の大多数に直接、瞬時にアクセスでき、発信に対して反応が返ってくることです。個人が力を付けることで、これまで以上に日本の発信力が高まるでしょう。
「イマ―ジョン」など日本語教育で学ぶ単語が
私が本書を読んで感動したのが、日本語教育で習う「イマ―ジョン」や「イングリッシュ・プラス」などの内容を、具体例を示して取り上げていたことです。
イマ―ジョンは外国語を学ぶ際、外国にいるのとほぼ同じ環境にどっぷりつかって外国語を身に付ける方法です。例えば小学校の授業で、算数も理科も母語ではなく外国語で学びます。カナダでの取り組みが有名です。本書では米国バージニア州と日本の静岡県沼津市にある学校の例を取り上げていました。またカナダのバイリンガル政策にも触れています。
「イングリッシュ・プラス」「イングリッシュ・オンリー」は米国での現象として知られています。1980年代に少数民族の権利擁護が高まり、多言語・多文化状況が広がりを見せる中で「米国の国家と社会を分断させる恐れが強い」という危機感が一部の人たちで高まりました。その結果、英語を米国の公用語として他の言語の使用を制限する「イングリッシュ・オンリー」という考えが出てきました。
一方、英語を基盤としながらその上にもう一つの言語を認めようという動きが「イングリッシュ・プラス」です。イングリッシュ・オンリーもイングリッシュ・プラスも移民が多く流入し、他民族国家である米国ならではの動態を感じさせる現象です。本書の執筆段階ではまだ決着が出ていないようですが、現在はどうなっているのか興味深いです。
英語を公用語に
本書では、日本における英語公用語を提案しています。正確には日本語を公用語、英語を第二公用語とする内容です。詳細は本書に譲りますが。一考の価値があると思います。
公用語をどうするかは日本の言語政策をどういう方向で展開していくのか、という問いになります。国内の人口減少が進み、労働力を補う意味で外国人労働者の受け入れが議論される中、日本語教育のあり方も大きく変わってきます。冒頭部分で英語の有用性について日本の情報発信・情報入手の観点から指摘しましたが、外国人労働者を受け入れる場合にも関わってきます。
いずれにしても面白い本でした。手放そうと思いましたが手元に置いて何か関連することがでてきたら確認してみたいと思います。日本語教育のことを直接書いているわけではないですが、関連付けて読むと理解が深まり楽しいですね。