岡本彩奈著 個人出版 2024年
日本語教師になって食べていくことは可能なのか。日本語教師を職業として検討したことがある人は、まず間違いなく考える大きなテーマです。
日本語教師として生計を立てるには、日本語学校に勤務したり、フリーランスとして個人レッスンをしたりするなどの方法が思い浮かぶと思います。
ただ、この業界を知れば知るほど、「果たしてどうなんだろう」と考え込んでしまいます。その迷いにズバリ答えようとしているのが本書です。ポイントは「ネットを味方につけて」ということです。
最近ではオンライン日本語教師という働き方が出てきています。日本語学校+オンライン日本語教師やフリーランス+オンライン日本語教師などの組み合わせも可能です。
本書はもっと踏み込んで、ネットを活用した日本語教育ビジネスの構築という観点で記載しています。
個人出版ということもあり、ペーパーブックのような装丁です。最初手に取ったときは「あれっ、こんな感じ」という印象を受けましたが、これまで日本語教育ビジネスを正面から取り上げた本はほとんどなかったのではないでしょうか(私自身はそういった本に出会ったことがないです)。ですから、ある意味、貴重な情報を提供しています。
著者はニュージーランドに住んでいます。現地の大学でビジネスの勉強をしながらアルバイト的な感覚で日本語教師を始めたようです。まず「日本語教師になりたい」という発想ではなく「日本語教師は、実際ビジネスになるのだろうか」というビジネス視点でとらえている点が、通常の日本語教師と大きく違うのではないかと思います。
ですから日本語学校などで常勤・非常勤講師として“雇われる”のではなく、事業主として成功するためのノウハウについて記載しています。その手段としてネットがあるということです。著者が紹介しているのは、自らのウェブサイト(ホームページ)をつくり、オンライン講座を展開するというものです。
ウェブサイトには予約機能や決済機能などを備える必要があるほか、何よりも利用してもらうための集客が重要になります。どうやってウェブサイトを構築するのかは、悩ましい感じがします。そのあたりはいくつかの既存のサービスの利用や専門家にお任せすることを勧めています。
具体的な話では、オンライン講座の構築について、リアルタイムでのレッスンではなく、事前にレッスン内容を撮影した動画を提供するオンディマンドレッスンを紹介しています。
さらに、初めて取り組む人にはオンライン講座用のプラットホームの利用を紹介しています。「そんなサービスがあるのか」と思いましたが、よくよく読んでみると、自分が作成した動画コンテンツを販売してくれるプラットホームに登録するというものです。それなら私も見たことがあります。
そのようなプラットホームには、日本語教育以外にもさまざまなジャンルの動画コンテンツが掲載されています。一般向け教養講座のオンライン版と説明したらわかるでしょうか(多くの自治体では住民向けにリアルの教養講座を企画・実施しているところがあると思います。それの有料版という感じですかね)。
確かにオンライン講座用のプラットホームを利用すれば、手数料が取られますがウェブサイトを構築する手間暇コストがかからずに、すみます。
また動画ですと1回撮影すれば、あとはある程度放っておいていいわけです(一定頻度で閲覧してもらえることが前提ですが)。動画コンテンツがたまってくれば、安定的な収入にもつながります。いわゆるお金が入ってくる仕組みができるわけです。
ただ、登録するという点では、語学専用のプラットホーム(italkiやPreplyなど)と同じです。レッスンがリアルかオンディマンドかの違いになります。また、事業者という視点で考えると、自らのウェブサイトを構築して運勢する方が、独自性のあるサービスやコンテンツを提供できます。
本書は最初の方で日本語教育ビジネスをどう構築していくかの視点を提供していますが、具体的な中身について記載のある後半部分は物足りないといいますか、少しピントがずれてきている気がします。
いずれにしましても日本語教師として食べていくために、ネット活用の可能性を示してくれています。そういう意味で参考になる本だと思います。