『日本語の謎を解く』

橋本陽介 新潮選書 2016年

これまでは日本語教育に直結する本を選択してきましたが、少し幅を広げようと本書を手に取りました。書名に『日本語の謎を解く』とあるとおり、日ごろ使っている日本語についての疑問を解説するというスタイルをとっています。

本書はもともと著者が勤務している高校で、生徒から現代日本語や古文、漢文、英文などに関する疑問を募り、そのうち日本語に関する疑問を整理して言語学に基づいてまとめたものです。私自身も疑問に思っている事柄がいくつもありました。それに対する解答は非常に高度でいろいろな要素が詰まっていました。少々難解と思われる部分もあり、本書の内容を高校生がすらすらと理解しているとしたら「すごいなあ」と思います。

著者の橋本氏の膨大な知識力に圧倒されました。本書が発刊された時は、橋本氏はまだ30代半ばです(年齢は意味がないことかもしれませんが)。「こんなにも縦横無尽に様々な角度から日本語を説明している」と専門家としての力量を見せつけられました。大学院で博士号をとっている橋本氏ですが、言葉への貪欲な探求力がなければできないと思いました。

日本語教育能力検定試験を通じて日本語教育を勉強している私にとって、日本語に関するさまざまな疑問は興味深いものがあります。例えば同書の疑問として挙げられている「ら抜き言葉はなぜ起こるのか。なぜ誤用として嫌われるのか」は身近なテーマです。

ら抜き言葉は、歴史的にみれば動詞の変化の過程にあり、現在の標準語からみたら「乱れている」ということになります。しかし、将来的にはら抜き言葉が普通の活用の形として認められる日が来るのではないでしょうか。言葉は常に変化しているもの、ということをあらためて実感しました。

著者は本書を通じて「最新の言語学の知見を伝えられるのではないかと考えた」としており、また「できる限り専門的な論文に当たりました」ということでしたので、面白くて理解しやすいところもありましたが、専門的で頭に入ってこない部分もあります。特に文法に関するところは、そうでした。いわゆる国語の文法について説明しているので、日本語教育の文法と異なることもあり私には理解しにくいのです。さらに古文について詳しく説明している部分がありますが、もうお手上げです。

本書を読んだことで、今使われている日本語の言語体系は、かなり明治時代に決まったものが多く、その体系に当てはめて私たちが理解していることに気付きました。そして繰り返しになりますが言葉は常に変化し続けているので、今の体系が必ずしもベストではなく、変化に合わせて修正などの見直しが必要になるのではと考えさせられます。

今回特に感じたのはある事象が言語学において「何をもって正しいとするのか」という視点でとらえると、答えが明確にないのでもやもやしました。学説や時代によって見方が変わり、言葉も変化していきます。いずれにしても日本語を多面的にとらえて考える上で有効な本だと思いました。

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