『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』

上野誠 2015年 幻冬舎

日本語の中でも「大和言葉」(昔から使ってきた日本固有の言葉)を上手に使った文章に心引かれるものがあります。表現が豊かというか味わいがあるというか。ただし、的確に使わないと微妙なニュアンスが伝わらずピンボケみたいな感じになります。今回はその大和言葉を味わおうと思い、『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』を手に取りました。日本語教育より、こうした日本語そのものの方が本当は興味があり、面白いですね。

同書では11のテーマに合わせて大和言葉を紹介しています。「感謝の気持ちをさりげなく伝える」というテーマでは「ねぎらう」という言葉が印象に残っています。ねぎらうとは、「骨を折った人をなぐさめること、苦労した人をなぐさめること」とあります。ねぎらうを日頃、口にすることはなかなかないですが、さらっと使えたらかっこいい感じがします。

「場をなごませるひと言を使いこなす」テーマに「おひらき」がありました。おひらきと言う言葉は、多くの人が集まる懇親会などでよく使います。閉会にするという意味です。おめでたい席で「閉じる」とか「終わる」という言葉は縁起が悪いので「ひらく」という言葉を使うようになったみたいですね。日本人らしさを感じる言葉です。また、「左うちわ」(余力があって楽なこと)もよく聞きますが、右利きの人が右手を使わなくてもよい状態を指します。なぜ左うちわなのかということは。うっすらと理解していたものの自信をもって説明できるほどのものはありませんでした。あらためて「なるほど、そうだなあ」と思います。

「ごぶさた」は久しく会っていない友人への連絡でよく使う言葉です。語源をたどっていくと、「沙汰」がものごとを処置することや報告・通知という意味を表しますが、それがないので「無沙汰」になります。無沙汰を丁寧にいうと、ごぶさたになるということです。なかなか面白いと思います。

他人行儀であること、よそよそしくて不愉快なことの意味で使われる「水臭い」という言葉の意味は普通に分かりますが、語源は知りませんした。もともとは水分が多くて味がしないことや、塩分が足りなくて味がない時に使う言葉でした。そこから転じて今の意味になったようです。語源を知っていると言葉をより深く味わうことができます。

「気の置けない」は使い慣れていないと意味を取り違える言葉です。本来の意味は「気兼ねをしないですむ間柄」ですが、逆の意味で「緊張する関係」ととらえてしまう場合があります。「気が抜けない」と取り違えてしまうのかもしれません。私自身、若いころ「気の置けない」はうまく使えない言葉の一つでしたが、ある意味アラフィフにもなれば「気の置けない仲間」というのは限られてくるため、この言葉の使い方もしっくりくるものがあります。

「せつない」「やるせない」はシンプルにひらがなだけの文字で記載すると、本当にせつなくやるせない雰囲気が伝わってきます。せつないは「切ない」とも記載できますが、やはりひらがなだけの方が情感がある気がします。せつないの語源は記述していなかったのですが、ネットで調べると「せつ」は心が切れるほどの思いを意味しているようです。それがない。だからせつないのです。一方、やるせないも調べてみると「やる(思いを晴らす)」、「せ(場所や手段)」がないので、やるせないだそうです。なかなか趣きがありますね。

「暮れなずむ町の 光と影の中~♪」。アラフィフ世代には分かると思いますが、タレントの武田鉄矢さんのバンドとして知られている「海援隊」の有名な曲「贈る言葉」の一節です。この曲で暮れなずむという言葉は知りましたが、どういう意味かは考えたことがなく、今回初めて知りました。「なずむ」は物事がうまく進まないこと、という意味なので暮れそうでなかなか暮れないことを表すようです。あらためて詩的な歌詞であることを実感しました。

「しなやか」という言葉は私の好きな言葉の一つです。柳の枝のように押し曲げても元に戻る感じで、柔らかさと強さを感じます。そんなしなやかさを備えた女性はすばらしいなと思います。

最近では体に悪いということで、タバコを吸う人が少なくなりました。私も昔はタバコを吸っていましたが、今はすっかりやめています。紫煙を「くゆらせる」というのは、タバコの煙を立てるという意味です。タバコの煙がゆっくり上がっていく、ゆったりとした状態をイメージできます。しかし、今では「くゆらせる」ということはなくなりました。このままいくと死語になってしまうかもしれません。日本語らしい表現ですが、時代の波には勝てないですね。

こうしてつらつら書いていくと、いくつもの大和言葉を列挙できます。あらためて大和言葉は日本人の心情を表すのに合っていると感じます。他にも取り上げたい言葉はありますが、きりがないので、ここら辺で打ち止めにしたいと思います。もっといろいろな書物を読んだりさまざまなことを体験したりしながら感性を磨いていき、表現豊かで味わいのある文章を書いたり、心に響くような言葉を発したりできるようになりたいと思います。

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